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完全クロムフリーSi系コーティング剤「ZECCOAT」®

亜鉛系めっき鋼材、完全クロムフリーSi系コーティング剤「ZECCOAT」の防錆性能

<放電精密加工研究所>中川 陽平

キーワード

溶融亜鉛めっき鋼板, Si系コーティング剤, 環境負荷低減, クロムフリー処理, クロメートフリー処理, 耐塩害性

1.はじめに

 近年の持続可能な開発目標(SDGs)である環境負荷低減の取り組みの一つとして,表面処理の分野ではクロムフリーに対する要求が高まっている。溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯(JIS G3302)に、白錆対策の化成処理としてクロメート処理およびリン酸処理(リン酸亜鉛処理の上にクロメート処理)が行われている。2019年JIS改定では環境負荷低減の観点から亜鉛系めっきからクロメート処理およびリン酸塩処理は一部削除、次回改定時に削除が予定されている1)(表1)。

表1 亜鉛系めっき鋼板および鋼帯の規格一覧

 亜鉛系めっき鋼板及び鋼帯が直面する大きな問題として白錆の発生および耐食性の低下が懸念される。これらの対策としては,気化性防錆剤の使用,屋内での保管・管理,めっきの厚膜化などが挙げられるが、コストや設備などの面から現実的でない場合もある。
これらを背景に、有害な6価クロムおよび3価クロムを含まない、完全クロムフリーの新規Si系コーティング剤であるZECCOATを開発した。その基本特性およびX線回折測定(以下XRD)による腐食生成物の同定から耐食性向上のメカニズムについて検討を行った。

2.試験概要

2.1 腐食試験

 中性塩水噴霧複合サイクル試験(JIS H 8502以降CCT)では、寸法3.2mm x 30mm x 50mmの試験体(株式会社日本スタンダードテストピース社製)に、溶融亜鉛めっき(HDZ55)後、クロメート処理(6価Cr)およびクロメートフリー処理(3価Cr)したものを用いた。また、それらの試験板にSi系コーティング剤「ZECCOAT」を成膜後の皮膜が約1μmとなるようにディップ&スピン塗装にて塗布した。
ZECCOATは図1に示すように無色透明な液体コーティング剤である。

図1 ZECCOAT液外観

2.2 X線回折測定(XRD)

 XRDには、腐食の進行が顕著であるクロスカット部についてCCT15サイクルおよびCCT30サイクル後のHDZ55とHDZ55にZECCOATを処理したものを用いた。薄膜や微細な腐食物の分析に用いられる微小部X線回折計(Rigaku社製 SmartiLab)にて測定を行った。

3.試験結果

3.1 腐食試験結果

 図2にCCTの試験結果を示した。 クロメートフリー処理(HDZ55+3価Cr)は9サイクルで白錆発生,クロメート処理(HDZ55+6価Cr)は18サイクルで損傷部に白錆が発生した。クロメートフリー処理(HDZ+3価Cr)は,クロメート処理(HDZ55+6価Cr)よりやや耐食性は低下する傾向にあった。クロメート処理(HDZ55+3価Cr)にZECCOAT®処理を併用することで,クロメート処理(HDZ55+6価Cr)と同等以上の耐食性を示した。また,完全クロムフリー処理(HDZ55+ZEC)においてもクロメート処理(HDZ55+6価Cr)と同等以上の耐食性を付与することを確認した。

図2 CCTの試験結果

3.2 XRD試験結果

 HDZ55およびHDZ55+ZECのXRD測定結果を図3、図4にそれぞれ示す。また、それぞれの腐食生成物を表2にまとめた。HDZ55のみCCT15サイクルおよび30サイクルで塩基性塩化亜鉛simonkolleite [Zn5(OH)8Cl2・H2O]、酸化亜鉛zincite [ZnO]が検出された。表面電荷状態から中性溶液中ではCl-は酸化亜鉛の表面に容易に吸着するが、SiO2表面には吸着が難しくCl-に対する高い物質透過抵抗性を持つことが報告されている2)。そのため、HDZ55は損傷部の亜鉛表面がCl-の攻撃を受けて塩基性塩化亜鉛smithsonite [Zn5(OH)8Cl2・H2O]が生じ、損傷部から全体にかけて腐食が進行した。一方、HDZ55+ZECの損傷部は炭酸亜鉛[ZnCO3] smithsoniteにより、非損傷部はSi系コーティングによりCl-の侵入を防いだ。その後腐食の進行により炭酸亜鉛からケイ酸亜鉛willemite [ZnSiO4]が生成されることが確認された。

図3 XRDの試験結果(HDZ55)

 

図4 XRDの試験結果(HDZ55+ZEC)

 

表2 腐食生成物

4.まとめ

 新規に開発したSi系コーティング剤に関して検討を行い、以下に示す結果が得られた。
(1)クロメートフリー処理(HDZ55+3価Cr)にZEC処理を併用することで、クロメート処理(HDZ55+6価Cr)と同等以上の耐食性を示した。
(2)完全クロムフリー処理(HDZ55+ZEC)においてもクロメート処理(HDZ55+6価Cr)と同等以上の耐食性を付与することを確認した。
(3)ZECCOAT®による耐食性向上のメカニズムについて、損傷部は炭酸亜鉛smithsonite [ZnCO3]により,非損傷部はSi系コーティングの物質透過抵抗性によりCl-の侵入を抑制した。
(4)腐食の進行により損傷部の炭酸亜鉛からケイ酸亜鉛willemite [ZnSiO4]が生成されることが確認できた。

参考文献
  • 1)日本鉄鋼連盟:ファインスチール秋,10, (2017)
  • 2)伊藤叡:ドライコーティングによるステンレス鋼の表面処理,表面技術,41, pp249-253, (2018)

 

著者

中川 陽平 
株式会社 放電精密加工研究所
事業開発部 機能コーティング課