高機能塗料展、セミナーレポート
高機能塗料展、セミナーレポート トヨタ塗着効率大幅改善 ほか
コロナ禍により、〝人が集まる場〟を設けることができず、展示会等で情報を取得することが難しい2020年前半であったが、後半に入りようやく各地で展示会が開かれるようになってきた。
そのような状況の中、12月2日~4日まで「高機能 塗料展」が千葉市美浜区中瀬の幕張メッセで開催された。 各社ブースはもとより、セミナー会場には最新トレンド等、業界の情報収集に多くの聴講者が集まった。ここでは、当日のセミナーをレポートする。
日本ペイントHD オープンイノベーションで課題解決
塗料・塗装・コーティングのセミナーで初日の12月2日にスタートを切ったのは、日本ペイントホールディングスで執行役R&D本部長の西村智志氏が「社会課題解決に向けた日本ペイントホールディングスグループの挑戦」について講演した。西村氏は、自身のプロフィールや創業139年を迎えた同社の概要について紹介した後、事業規模を分かりやすくするため、売上6920億円(2019年度)、時価総額約4・1兆円(12月1日時点)に29カ国・地域への事業展開、グループ社員数約2万5千人(国内3千人)、研究開発費174億円、技術者数約3600人(同1千人)といった数字を公開した。
企業の強みとして「成長産業である塗料業界におけるリーディングプレイヤー」「アジア・中国における圧倒的なポジション」「積極的なM&Aの推進と蜘蛛の巣型経営」「先進的なカバナンス」を列挙。成長市場で多面展開できるグループ力、中国市場における圧倒的なシェアと立邦ブランドの認知度、信頼に基づくパートナーシップによるシナジー効果の発揮、指名委員会等設置会社への移行で経営の透明性・客観性・公正性の確保や迅速な意思決定など、多くの強み要素を有していることを強調した。
解決すべき社会課題としては感染症リスク抑制、スマート社会への貢献、環境負荷低減、社会コスト抑制を挙げている。これに対し、グループの塗料・コーティング技術と外部の最先端な知や技術を融合するオープンイノベーションを通じて、生活に彩りと快適さ・安心を提供することを宣言した。その最近の事例として、東京大学との社会連携講座を開設し、革新的コーティング技術の創生を目指した人材育成を行うことを紹介した。
トヨタ自動車 高塗着効率塗装システム 50年振りの大改革に
2日、2本目のセミナーには、トヨタ自動車の車両生技開発部塗装・成型室グループ長の谷真二氏が「超高塗着エアレス塗装システムの開発」をテーマに講演した。同社は、塗料飛散を限りなくゼロに近づけるため、50年振りの大改革を決行。塗装機のヘッド形状と回転の最適化を行った回転式静電微粒化装置を新たに開発し、成果を得た。
新塗装技術は、塗料粒子径のバラつきを小さくすることで、一定の粒子径により、高品質の塗膜と高塗着効率を可能にする。塗着効率は、従来型の60%~70%程度から、世界最高水準の95~98%以上に向上した。塗料の微粒化を実現(=塗膜品質の向上)のために重要なもう一つの技術として、「高精度定電流制御開発」がある。これまで、車体の凹凸により円筒型ヘッドと車体の距離が変動すると、電流が不安定となるケースがあった。電流のバラつきは、微粒化の悪化となると解説した。
そこで、同エアレス塗装機は、電流を常時監視して一定に保ち、電圧で自動制御(=調整)したシステムも構築、円筒型ヘッドと車体の距離を一定に保ちながら、塗装できるようになった。これにより、塗料粒子の大きさのばらつきを回避することができ、高品質な塗装を実現している。
谷氏は、「環境技術は広く社会へ還元する必要がある」と主張し、一方で「自社開発だけでは限界がある。環境規制のことを考えると塗装は厳しい面がある。今後も地球に、人に、やさしい技術開発に力を入れていく必要がある」と語り、講演を終えた。
関西ペイント 漆喰塗料のメカニズム解説
3日には、関西ペイント汎用塗料本部建設第2技術部の樋口貴祐部長が「当社漆喰塗料の抗菌・抗ウイルスを中心とした機能について」のテーマで講演した。まず漆喰塗料について説明し、主成分は消石灰(水酸化カルシウム)となり、消石灰は水分に接触するとわずかに溶解し、溶解液は強いアルカリ性を示すのが大きな特徴であると解説。抗ウイルス・抗菌・消臭・調湿の4つの機能があり、「衛生環境向上分野で貢献していきたいと考えている」と樋口氏は語った。
漆喰塗料の構造は、塗膜表面や内部に多数の細孔があり表面積が広い。ウイルス液が塗膜の消石灰と接触すると、ウイルス周辺の水分が強アルカリ性になり、わずか数分でウイルスとしての機能を損なうとメカニズムを解説した。8年を経過した漆喰塗料でもpH試験紙は青くなり、アルカリ性が維持されている。理論上では10年近く維持すると考えられているとのことだ。
カビや細菌に対する効果も消石灰の強アルカリ性によるものであり、カビや細菌などの微生物は酸性から弱アルカリ性が生育可能範囲で、最適な範囲は中性付近。漆喰塗料の細孔内のpHは11以上で、菌やカビは死滅する効果があると解説した。同社の漆喰塗料は建築用途として内装用、外装用、高意匠性があり、刷毛やローラーで塗装する。主に福祉施設、病院や医療施設に使われている。
さらに、独自に開発した、加工製品に適した「高柔軟性漆喰塗料」は紙や不織布に塗布して、接触感染テープや、同シートとして使用され、新型コロナウイルスの接触感染予防に効果を発揮していると紹介があった。「漆喰塗料は抗菌・抗ウイルス効果の他、消臭効果、ホルムアルデヒド除去効果、耐結露効果が実証されている」と結んだ。
ABB 塗装工程自動化の3つのポイント
4日のセミナーでは、ABB社長の中島秀一郎氏が事業コンセプトと「塗装工程ロボット化、その成功のコツと最新技術」をテーマに講演を行った。ABBは、塗装に関する生産性を、同社が持つ「塗装機」と「技術」で上げていくことを信念とし、高い技術とノウハウを持った人材とお客様とで、一緒に自動化するシステムを作り上げる協働志向を持った組織である。
最初に始めたのは塗装の事業であった同社は60年にわたりロボット、塗装機を使ってやれることはないかを考え、最適な塗膜を実現するためにどんなシステムが良いのかを追求し続けている。塗装機が欲しいというお客様から、塗装ラインを一括で求めるお客様まで、様々な用途に応えている。同社は、外板から内板の塗装、内工程のダスティング、シーリング、品質検査までが塗装工程のロボット自動化に対応可能であるとし、その成功のコツとして3つのポイントを上げた。
1つは抱え込み過ぎない。ファーストコンタクトのやり取りで相性の良いパートナーを見つけること。2つめはできる限り全体感を持つ。システムの導入、運用全体を大きく捉え目的を持つこと。3つめはパートナーの得意技を見極める。塗装機、塗料メーカーや設備など目的やビジョンに合うサプライヤーを選ぶことであるとし、着眼から運用まで導入過程をおって3回の検証を行う、最適なパートナーと最適な体制を組み、提案する流れを具体例で紹介した。
最後に最新のロボット技術について、デジタル化対応した初めての塗装機「コネクテッド・アトマイザー」は、顧客の塗装に関するデータを取り出せるしくみを構築した。最近では検査の自動化も手掛けている。さらに、9月に上海で開催されたCIIFで、プレスリリースしたインクジェット使用のノンオーバースプレー塗装「Pixel Paint」を紹介。今後は、塗料メーカーや自動車メーカーとの協調が必要である、と示した。