工業塗装テック、塗着効率100%へ塗装の大改革進む
工業塗装分野での先端塗装技術である自動車塗装。昨今、塗着効率改善や塗装自動化の技術は、その他一般産業分野に下りていく時代となった。それは、自動車分野を得意としていた塗装機メーカーや商社の動きからも分かり、ロボット塗装機メーカーからは「どうやって自動化を達成したらよいか」という相談が増えてきたという。今後の工業塗装を占うべく、自動車塗装の先端技術を追う。
自動車塗装の塗着効率100%時代 クリーンな塗装で発展促す
昨年12月、幕張メッセで開催された高機能塗料展で大気社のブースが賑わった。発表した技術の一つに静電霧化塗装システム「i‐ESTA100TE」がある。塗着効率100%を称し、静電塗装の塗着率を極限までに高めた塗装機だ。噴霧ノズルから吐出された塗料は、静電微粒化に最適な糸状となり切断され、塗料は電気力線に沿ってワークに塗着する。トヨタ車体との共同開発の塗装機で、飛散ゼロ化によりブースの汚れを抑制できる。こちらの塗装システムは溶剤塗装向けの塗装機である。
トヨタ自動車でも、こうした高塗着効率の塗装機を開発し採用しており、溶剤・水性塗装どちらも使用可能である。開発した「超高塗着エアレス塗装システム」は、塗着効率は95%以上を達成し、従来塗装の60~70%を大幅に上回る。同システムの詳細は、本紙で既報(2020年3月27日付)しているためここでは詳細を避けるが、塗着効率による「塗装のあるべき姿」を説明する。
自動車産業はCASEに見られる業界の100年に1度の大変革期を迎え、同時に低環境負荷への生産体系が課題となっている。特に塗装工程は工場のCO2の排出量が、全体の22%と最も多く、「塗装の大変革」も必要となっている。特に、塗装ブース周辺で言えば、塗装後の清掃メンテナンスや排水処理、塗料カスの回収などで、設備や人に大きな負担を強いられていた。
そこで、こうした課題を解決するためにも、塗着効率の改善こそが優先的な開発目標とる。ダストの飛散がなく、廃棄される塗料が激減することで、汚れるという塗装の概念を和らげられる。実ライン導入実績としても、2時間に1回であった清掃が午前1回と回数が減り、かつ省人化にもなった。塗着効率は、塗料材料費用が抑えられるが、それ以上に人件費や塗装ブースの簡素化につながっていく。今後、トヨタ自動車では、次世代塗装ライン・ブースの国内導入を予定している。塗着効率改善により、排水処理を必要としないドライブースによる小型化が設備の肝だ。すでに中国の工場では新ブースが稼働しており、ブースの高さ40%減など、超コンパクト化した塗装ブースが誕生している。
塗着効率改善により、環境負荷を低減した「塗装のあるべき姿」を追うトヨタ自動車。自社で開発した環境技術は競業他社へも提供したいと考えており、塗装技術の生き残りをかけ邁進する。
検査項目での自動化が進むか
自動化と言えば、まずロボット塗装が頭に浮かぶが、塗装用ロボットはロボットの用途として最も古い部類になり、産業の発展に貢献してきた。溶接用ロボットと同様に、自動車関連産業が最大のユーザーであり、業種が限られるためロボット用途の中では、シェアは低い。日本ロボット工業会の2019年ロボット統計によれば、2019年出荷が19万6622台に対し、塗装ロボットは2141台と、わずか1%である。
こうした中でロボット塗装の拡大には、中小企業のメーカーや専門工業塗装事業者への導入が必須となり、ロボットメーカーも近年、小型化したロボットのラインアップを増やしてきた。ロボット導入コストは、人件費の2~3年分。人材不足はもちろんのこと、就業規制など厳しくなる経営環境やコロナ禍においての感染症対策としても、ロボット塗装が再び注目を浴びている。
労働としてのロボット導入という位置付けから、現在は、塗装ライン全体の自動化に資すると言う目線が過去とは違う。塗装機に組み込むことができるIoT技術やソフトウエアの発達がその例だ。特にソフトウェアの発達は、導入のハードルを下げ(=誰でも操作できる)、個社塗装技術をデータ化し、保存するという点も有効となる。塗装の自動化は、塗装工程を超え検査工程へ歩みを進める。自動車塗装の検査は、人手に頼るところがあり、検査員が違うと合否に差異が発生、追加検査項目への遅れや、目視のため見逃しが起きている。あるラインでは、電着・中塗り・ベース・クリヤーでそれぞれ2人ほどを配置し、工場稼働に合わせシフトが組まれており、人件費も課題となっている。
こうした領域において、リコーエレメックスは特殊なレンズで検査ワーク面に縞模様を投影し、特殊なレンズで検査ワーク面に縞模様を投影して検査を行うシステムを提供している。また、コニカミノルタは、スペインの自動車生産の品質検査自動化システム開発を行うエイネス・システムズを買収、この領域の拡大を狙う。さらに、同様のスペイン競合メーカーも日本参入を模索するなど、自動検査領域は活況になりそうだ。自動車塗装での自動化は、検査の最終工程まで進み、ライン全体の自動化がすぐそこまで来ている。