東京モーターショー 「マット塗装」最前線
コンセプトを「マット塗装」で表現
昨今の自動車のエクステリアのカラートレンドの注目の一つにマット塗装(艶消し)がある。既にBMWが市販されている限定車などで採用されている塗装である。今回の東京モーターショー2017でも、ホンダやトヨタのコンセプトカーやレクサスの展示車には、塗装が一番の売りではないが、マットのボディーカラーを採用している。マット塗装は、数ある各社コンセプトカーの展示の中に、来場者の目をひきつけたり、クルマへの想いを塗装で表現するのには、有効な手段だったと言える。
例えばホンダが発表した「Honda Urban EV Concept」は、“もっと、人に、暮らしに、寄り添う。先進技術が生んだ、これからのスモールカー”として、新開発のEV専用プラットフォームの採用や、AI技術を用いてドライバーのライフスタイルや好みを学習して状況に応じた提案を行うコンセプトカーである。
このコンセプトカーにはホワイトのマット塗装で仕上げられており、塗装について同社担当者の話では「人に寄り添うということを考えた時に、マットな塗装は、クルマのイメージを柔らかくさせている」と話す。遠くからの担当記者の目では、パールホワイトの輝きに比べ、奥ゆかしいふわっとした質感を遠目でも感じられた。この塗装は、今回発表したコンセプトカーのスポーツタイプ「Honda Sports EV Concept」や自動運転技術とAIによって拡がるモビリティーの可能性を模索したコンセプカーの「Honda NeuV」も同じ塗装で施されている。
一方、トヨタやレクサスのコンセプトカーは、「マット・ブラック」の塗装でスポーティで力強さと迫力を感じさせる。
トヨタの「GR HV SPORTS」は、スポーツカーと環境技術を融合で「新たな楽しさ」を提案するコンセプトモデルである。世界耐久選手権(WEC)で戦うハイブリッドレーシングマシン「TS050 HYBRID」を想起させるデザインで、ハイブリッド技術「THS-R(TOYOTA Hybrid System-Racing)」を搭載している。
環境技術というとホワイト系のイメージのカラーリングを選択しがちだが、そこはあくまでもスポーツカーを主張するため「マッドブラック」を採用。存在感際立たせ、ライティングの加減で陰影がくっきりとなり、ボディの美しい曲線が浮かびあがる。
また、レクサスは、2018年春頃発売予定としているRCFの“F”10周年記念特別仕様車を展示。このクルマも「マットブラック」の塗装しており、このままこの塗色が採用され市販されるかは気になるところだ。
市販車でのマット塗装 大量生産の課題とは?
限定車という中ではあるが、既に市販されているマット塗装の展示もあった。
BMWはPHEVスポーツ「i8」やハイ・パフォーマンス・セダン「M5」の限定車にマット塗装が採用されているが、今回の東京モーターショーの展示車でも「i8」を展示。しかも、ボディーカラーはマットの「Protonic Frozen Yellow」というイエロー系のカラーで、、来場者の興味をひきつけた。
「i8」はボディの骨格に「CFRP」(Carbon Fiber Reinforced Plastic)が採用されているが、マット塗装と相性がよい部分もあり、ボディの金属感というのは損なわれていない。塗料にはアルミとチタン粒子が含まれているという。塗装されている箇所だけみると、ボディがCFRP素材だとはわからない。
マット塗装は、洗車機で洗車できない。マットブラック等は雨だれなど汚れが目立つこともあり、手入れがたいへんだと多数聞く。そのあたりを、既に市販している同社担当者に聞くと「グラスファイバー製の布と水を使用しての手入れとなります」ということで、シャンプーやワックスを使用してしまうと質感が落ちてしまうので、気を付けたい。
ここまで見てきたマット塗装。
ボディーカラーの差別化や興味をひきつけるには、効果を示しそうである。しかし、大量生産に向いているのであろうか?
塗装の作業工程から考えると、新車をマット塗装で仕上げるとなるとポリッシャーを使って磨き上げるといった作業ができない。研磨すると塗膜表面のツヤ消し層が失われてしまうからである。
そのためポリッシュレスを前提にノータッチアップ生産を目指すなら、仕上がりのコントロールだけでなく半導体生産のクリーンルームを超えた設備や凝集ブツ対策といった極めて困難な課題を解決しなければならない。
大量生産となると、設備を含む塗装技術にさらなる前進必要が条件になってくる。確実に品質を維持し安定して大量生産できるとは確約できないのが実情のようだ。