東京都立産業技術センター技術開発支援部長 木下稔夫氏
塗膜の魅力を認識 塗装活かすデザイン積極的に
素材と塗装の関係性を考えると、まず保護という目的で塗装をしなければいけない素材がある。例えば鉄のように錆びてしまう素材は、基本的には表面処理をせざるを得ない。その中の一つの手法が塗装になる。
一方で、プラスチック、ガラス、セラミックなどのように、保護という点では、絶対にしなくてはいけないというわけではないが、塗装することによって、意匠性・機能性などの付加価値が生まれる素材もある。
これら保護、意匠、機能の関係性の中で、どういう目的で、どういう素材を使うかということから塗料や塗装の仕様といったものが決まっていく。また、逆にものを作るとき、塗装の持つ役割が何なのかによって、そのもの自体がどういう形で作られていくべきなのかが、決まっていくことがあっておかしくない。
塗装の仕事というは、いつも最終の処理である。例えば金属加工の業者が製品の形を作り、塗装業者への一方的な指示によって、ただ処理するのではなく、塗装業側が表面処理の視点で仕様を逆に提案する方が本当の意味で良いものができる。しかし、塗装業において、なかなかそういう理想形には、なっていない現状がある。これからは請負業であっても独自性を持って、下請的な仕事ではなく、塗膜を売り物にして仕事を見つけていかなければならない時代にきていると思う。
塗料・塗装によるデザインを考えるとき、ただ〝デザイン〟という表現が、昔で言う見た目を良くするというイメージのデザインから、製品そのものを設計して、どのように最後は売るかといった、上流から下流まで全部を含めて〝デザイン〟であるという考えが、普及してきている。そういった意味では、塗装の持つデザインとしての役割というのはかなり幅広いと感じる。
色を表現する手法はいろいろあるが、単なる色だけでなく、触感などの五感に訴える〝色だけではない、感性の部分〟というのが塗膜の魅力である。逆に魅力ある塗膜を活かすデザインというのは、あるものを造形する時、塗装という工程は最後だとしても、造形物にただ色を付けるのではなく、目的や用途などに対して、塗装による設計・仕様を最初の段階から考えておかなければならない。本来は実際に塗装をする人たちが、デザインの中にどんどん入っていくべきだと思う。やはり塗装の魅力を最大限に引き出すには、デザインからやるべきであり、塗装の機能をどう活かし、付加させるかを最初に考えるべきである。
近年は3Dプリンターを使って、従来のプレスや金型で作るものとは表面性状の違う素材も出てきている。現状ではまだ、そのまま製品にするというよりは試作モデルとしての用途のものが多いが、将来それ自体が製品になるのが一般的と考えられている。その場合は表面への塗装が必要になり、塗装素材として3Dプリンター素材という種別が生まれてもおかしくない。また、これからも高機能で新しい表面性状を持った素材が増えてくるだろう。それに対応できる塗料、塗装方法、システムの開発を塗装業界全体としても取り組んでいくことが望まれる。
※本インタビューは2016年10月27日号(4156号)塗料報知新聞社「創立70周年記念特大号」の特別企画です。「塗料・塗装の利点と問題点」を業界の有識者にインタビューしたものです。