厚労省、個人サンプリング拡大へ
厚生労働省は「化学物質管理に係る専門家検討会」(座長:城内博 労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所化学物質情報管理研究センター長)において中間取りまとめを行い11月21日に公表した。
今回の中間取りまとめでは、今年5月に公布された労働安全衛生法による新たな化学物質規制を円滑に施行するため、労働者のばく露が大臣の定める基準(濃度基準値)以下であることを確認する測定等について、取りまとめている。また、ばく露測定を労働者の身体に試料採取機器を装着して行う個人サンプリング法による作業環境測定の適用拡大等の方針を示した。
労働者のばく露が濃度基準値以下であることを確認する測定について、事業者はリスクアセスメントの結果や数理モデルによる解析の結果等を踏まえ、有害物質へのばく露がほぼ均一であると見込まれる作業に従事する労働者へのばく露濃度を評価する必要があると定義した。
確認測定では、労働者のばく露の程度が濃度基準値のうち、8時間の時間加重平均の濃度基準値の2分の1程度を超えると評価された場合は、確認測定を実施する。測定の対象者の規定では、最も高いばく露を受ける均等ばく露作業において、最も高いばく露を受ける労働者の呼吸域の測定を行う。 また、全ての労働者に対して一律のばく露低減措置を行うのであれば、それ以外の労働者の測定を行う必要はない。ただし、ばく露濃度に応じて、ばく露低減措置を最適化するためには、均等ばく露作業ごとに最大ばく露労働者を選び、測定を実施することが望ましいとした。
労働者の呼吸域の濃度が、濃度基準値を超えている作業場については、少なくとも6カ月に1回、個人ばく露測定等を実施し、呼吸用保護具等のばく露低減措置が適切であるかを確認する。 労働者の呼吸域の濃度が濃度基準値の2分の1程度を上回り、濃度基準値を超えない作業場所については、一定の頻度での確認測定の実施が望ましいという指針を示した。
なお、短時間濃度基準値は、作業中のいかなる15分間の時間平均値も超えてはならない濃度として設定。 8時間濃度基準値を超え、短時間濃度基準値以下の濃度のばく露については、1回あたり15分を超えず、8時間で4回までかつ1時間以上の間隔を空けるように努めるべきとした。
短時間濃度基準値が設定されていない物質についても、作業期間のいかなる15分間の時間加重平均値が、8時間濃度基準値の3倍を超えないように努めるべきという方針を出した。
また、今回の取りまとめでは、ばく露測定を実証値に近づけるため、統計的評価(C測定)よりもばく露測定を労働者の身体に試料採取機器を装着して測定を行う個人サンプリング法(C・D測定)による作業環境測定の適用拡大の方針を示している。また、作業中の最も高い濃度と管理濃度を比較するためのものであることから、管理濃度を精度良く測定する観点から可能な方法を検討すべきとしている。
しかし、個人サンプリング法は現場への浸透、作業の手間や費用に関する理由から現時点では実績が少ない。それでも今回の取りまとめでは、個人サンプリング法を推進する理由として、リスクアセスメントのための個人ばく露測定とその結果の統計的な評価を兼ねることが可能なことや、個人ばく露測定の担い手を育成する必要があり、また第三管理区分(単位作業場所内の有害物質濃度の平均が管理濃度を超える状態)となった事業場では、個人サンプリング法等が原則となる点を挙げている。
現場へ活用のためには課題もあり、費用の問題はもとより、 個人サンプリング法の精度管理の制度の構築、作業所担当者の育成、測定と分析(業務委託)を分けた業務フローなどの構築が挙げられる。
なお、建設作業等の現場についても言及している。建設作業事業者においては、毎回異なる環境で作業を行う場合については、異なる現場で毎回測定を行うことは困難である理由から、典型的な作業を洗い出し、あらかじめそれら作業における労働者のばく露を測定。その測定結果に基づき、必要なばく露低減措置を決定しておくことで、それら作業に関するリスクアセスメントおよびその結果に基づく措置を実施する方法も認められるべきであるとしている。
個人サンプリング法の拡大の背景には、国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼり、その中には、危険性や有害性が不明な物質が多く含まれる。さらに、化学物質による休業4日以上の労働災害(がん等の遅発性疾病を除く)のうち、特定化学物質障害予防規則等の特別則の規制の対象となっていない物質を起因とするものが多数を占めており、厚労省はこうした新規物質に対しての規制強化を急いでいる。