コラム、他業界をのぞき見<人手不足対応>
介護分野の定着率向上策は
「現在際立って人材が不足している現場としては、介護、保育、建設、IT分野である。また、採用後の定着についても支援が必要だ」と、地方労働局人材課担当者は話す。介護、保育は大幅な需要が見込まれる中での人手不足。建設は入職者が減少傾向によるもの。IT分野は急速な成長に専門性のある人材が追いつかない。それぞれの分野ごとで事情が異なる。
しかし、せっかく採用した優秀な若手人材の定着率を上げるには、どの業界も同じ課題。新規学卒者の卒業後3年以内の離職状況を見ると、大学32.3%、短大等41.5%、高校40.0%、中学65.3%となっている(厚生労働省平成27年10月30日発表)。短大から中学卒は3年以内で4割は辞めていく事実を踏まえつつ、せっかく採用した優秀な若手人材の定着率を上げるには、経営者側の手腕の見せ所だ。
人材不足が問われる他業界でどのような取り組みが行われているのだろうか。他業界の取り組みから役立つことはないか。今回は、年間150人の介護士の採用とクライアント件数3000社を持つ介護人材採用担当者から過去に有効であった定着率を向上させる施策を聞きまとめた。
面接には教育担当者を
面接段階では、中小企業であっても、採用後に配属される現場担当者(教育担当)に必ず面接担当の機会を設ける。採用後、直接指導する担当者が「採用に関わった」という事実により、”採用したのは私”という意識を持たせ、採用後の教育に熱が入るという。このため新入社員の面倒見が良くなり、早期の離職を防ぐ。経営者のみの面接だけだと、教育期間中に現場で上手く行かないことがあると、現場担当者が採用自体に疑いの目を向けることがある。人材育成には長い目が必要で、採用に関わらせることで、現場担当者の意識を高める。
キャリアプランを提示
どういうキャリアプランがあるのか入社段階すぐに、採用者に話しておくのも重要だ。1年後、3年後、5年後中長期の仕事内容、ポジションまで既存社員の例を挙げるのも良い。若手人材を採用した場合、とりわけ最初の業務は根気のいる仕事に配属されるであろう。この仕事はいつまで続くのかと不安になることもあるのではないか。先輩社員がどのようにして成長して来たか早期に見通しをつけさせる。
また、最初は「仕事ができない。先輩社員についていけない」は当たり前。この不安を解消させとかないと「ここは自分の居場所でなかった」と感じてしまうのが最近の若者のようだ。せっかくの将来性のある人材をコミュニケーション不足だけで、離職させてしまうのは勿体ない。であれば、早めに仕事を割り振る。本業部分でないところでも良い。採用した人物の性格により、会社に足りない部分を担当してもらうのは有効だ。また、ミーティングには、新入社員の意見、発言させる機会を作る。発言内容はともかく当事者意識を早い段階で植え付けさせる。受け入れる側では、新入社員に意見を言う人を3人設けとく。内容によって使い分けると良い。大、中、小の問題の大きさで各責任者の領域内で意見する。また、フォローする人間を立てておくのも重要だ。
作業着、肩書も
介護職員の制服を有名なデザイナーに頼み、親しみやすい制服に変更して、応募の増加と離職率が低下した例がある。「可愛い」、「カッコいい」を演出するのは仕事選択に重要な要素だ。また、このイメージは、仕事中の意識を高める。
塗装でいうと作業着のデザインをもう一度見直すのはどうか。特に建築は施主や周辺住民に仕事をPRできる環境なので、どの業界でも仕事着には気を遣う必要がある。
また、モチベーションを上げるには、肩書も重要。総務の事務職を「経営企画」、営業を「事業戦略」として変更している会社を良く見受けられる。
会社目標の浸透策
会社の目標と同期化さるのには、会社の現実を早めに伝えるのも有効だ。担当するある会社は、決算書を全員で共有している。現在の給与額に見合っているか確認にもなり、会社の掲げている目標、個人の目標の浸透度が速い。
対策を聞いていると、当たり前の部分を着実に実践した内容と、「ここまで新人に気を遣う体制が必要なのか」と思われた読者も多いのではないか。しかし、定着率を上げる対策は優先課題になるのは間違いない。総務省の報告では、2060年には労働力人口が4418万人まで大幅に減少することが見込まれる(2015年6598万人)と予測しており、継続的な経営を実現するには人材の確保は最も重要な関心事である。塗装団体幹部も「今後は人を確保できるかどうかが経営力の差」と話す。
業界関係なく人材不足は続く。同じ問題であれば、他業界の対策に目を配る必要があるだろう。