〈4〉コラム:できてますか?価値観マッチング採用
1-4.塗装店の安定経営の基本「理念・ビジョン・価値観マッチング採用」について
〈4〉塗装店向け採用・教育の指南コラム
著者プロフィール:
日本建築塗装職人の会 会長 青木忠史:
「日本を代表とする建築塗装店向けに展開する経営コンサルタント。
29歳の時、家業の建築塗装店を継ぎ、6,000万円超の借金をわずか3年で完済。そこから生まれた「地域密着型経営」、「職人直営専門店」の塗装店戦略を体系化し、コンサルタント業へ。これまで7,000件以上の塗装店経営者の経営相談を受け、700社以上の塗装店経営者へ直接経営指導してきた。
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前回の「1-3.小さな塗装店を着実に成長させる「社員教育」について」では、具体的な社員教育の内容を共有させていただきました。
そこで今回は、さらに前進して、小さな塗装店が採るべき採用方法「理念・ビジョン・価値観マッチング採用」について、お話ししてみたいと思います。
今回の内容は、
・良い人材を採用したいと考えている方
・採用した社員に長く定着して活躍してもらいたいと考えている方
には、参考になると思います。早速、結論から申し上げますが、社員に長く定着して活躍し続けてもらうためには、「業務特性」を見極めて、「考え方」をマッチする社員を採用していくことになります。
「業務特性」とは、その業務に向いているか・どうかという点を指しています。「考え方」とは、・理念・ビジョン・価値観の3点を指しています。「業務特性」を見極めて、「考え方」をマッチさせていく採用を行っていくことができれば、着実に会社の組織ができていきます。では、もう少し具体的に説明致しますね。
1.そもそもなぜ「理念・ビジョン・価値観マッチング採用」なのか?
そもそも、なぜ「理念・ビジョン・価値観マッチング採用」なのかと思われる方もいることと思います。ではまずは、理念・ビジョン・価値観マッチング採用と一般採用との比較表をご覧ください。
良い人材を採用するためには、次のように考えている方も多いと思います。
・求人広告に他社よりも良い条件を提示することが大事なのではないか
・求人広告に少しでも良い会社に見せることが大事なのではないか
しかし、そのような「一般採用」では、逆に退社率が高かったり、任せた仕事以外を任せづらかったり、社内での人間関係のトラブルが多かったりするケースがかなり多いものなのです。そのため、一度採用した方に長く活躍し続けてもらうことが大切であることからも、応募者は少なくても、「理念・ビジョン・価値観」にマッチした人材を採用していくことが大事であるということなのです。
結婚相手を選ぶ方法に似ている採用方法!
また、「理念・ビジョン・価値観マッチング採用」を、違う角度から説明しますと、結婚相手を選ぶ選び方に極めて似ている採用方法でもあるのです。
そこで1点ご質問です。あなたは結婚相手を選ぶ時には以下のように考えませんでしたか?
「この人とならこれからもずっと愛し合って、一生涯連れ添っていけるかな」
そのために、常日頃からお互いの考え方やクセを理解し合ったり、未来をお互いに共有しあって、擦り合わせをしたりしていませんでしたでしょうか?長く一緒に過ごすためには、考え方や目指す方向性が共有できていることが大切であるということを、私たちは学ばずとも本能的に理解して、結婚相手を選ぶときに実践しているのです。実は、「理念・ビジョン・価値観マッチング採用」とは、このような人間の本質に沿った採用方法を指しているのです。
ところが、結婚相手を選ぶときと採用とで大きく違うのは、以下の点です。
・採用では1〜2回の面接で、「考え方」を合意させていかなければならないという点
・採用から入社後の短い期間で「業務特性」を見抜かないといけない点
このため採用は難しく感じてしまうのです。
しかし、このような前提を理解していただくことで、
◎社長が大切にしている「考え方」=思い(理念)・行き先(ビジョン)・価値観が明確であれば、賛同してもらえる人材を集めることができる
◎「考え方」が「見える化」されていたら、たとえ「考え方」が多少違っていても、お互いの距離を調整して長く付き合うことができる
このように考えていくことで理解が進むようになり、入社後に活躍する人材の採用を実現できるようになるのです。
そのため、採用時に「考え方=理念・ビジョン・価値観」を共有しあっていくことが大事であるということなのです。
2.理念・ビジョン・価値観とはどのように考えるのか?
では次に、自社の「理念・ビジョン・価値観」とはどのように考えるのかについてを、お話しします。
①理念とは?
まず「理念」とは、会社の「魂」「根源的な思い」です。創業以来、社長であるあなたが、この仕事をし、会社経営をする上で、繰り返し繰り返し思っていたこと、繰り返し繰り返し社員に伝えていたこと。おそらく、それが「理念」です。具体的には、「どんな現場でも絶対に手抜きをしない」などというシンプルな言葉でも良いのです。カッコいい言葉よりも、社長自身の心の底から湧き出てくる言葉をまずは抽出してみることを心がけてみてください。
しかし、自分や会社の成長とともに、過去の理念とは違う「理念」のほうが相応しいのではないかと思った段階で、柔軟に修正をしていくのも、また良いことです。一度決めたら、ずっと貫かなければいけないと思っている方が時々いますが、必ずしも最初からカチッと立派な理念を考えられるということはありませんので、常に、現在良いと思った理念を表現していく気持ちでOKです。また「理念」という言葉ではなく、類似概念ですが、MISSION(ミッション)を掲げる会社も最近は増えています。「理念」か「MISSION」かは、好みの問題ですので、どちらでも良いと私は思っています。
②ビジョンとは?
次に「ビジョン」とは、一言で言うと、会社の将来像や実現していきたいこと、すなわち「GOAL」です。具体的には、会社のGOALには、以下のようなものがあります。
・〇〇〇人の会社になる
・〇店舗展開
・〇〇〇〇人のお客様に喜んでもらう
・100年企業になる
・〇〇県で1番〇〇〇になる
・日本で1番〇〇〇になる
・塗装業界の進歩発展と大調和を実現する(日本建築塗装職人の会のビジョン)
この他にもいろいろとあると思いますが、このように聞くと、なんとなく自分らしいGOALを考えることができませんか?あなたがこの仕事を通して、社員のみんなと実現していきたいことを考えてみてください。「ビジョン」も最初から立派なものを掲げる必要などはありません。しかし、会社がこれからどこに向かっていくのか、どのように成長していくのかは、社員が社長についていく上でとても大事な要素ですので、早めに掲げていただくことをおすすめしています。
③価値観とは?
そして、「価値観」とは、仕事を行う上で絶対に外せない「事業の本質に近い考え方」を指しています。具体的には、
・塗装工事は委託者の意思の延長線上にあると知ろう
・常にダンドリを考え無駄のない仕事をする親方が素晴らしい親方である
・仮にお客様に褒められても、自分で満足できない仕事は絶対しないようにしよう
・子方を育ててこそ、本当の親方である
・地元のお客様を徹底的に大切にする
など、塗装店経営の中にあるこのような独特の考え方の全てが価値観です。意外と沢山の価値観がありますし、そのお店によって力を入れるものが違うこともありますが、多くの場合、社長が社員に「塗装屋は、このような考え方が当たり前だよ」と思っている考え方を指しています。価値観は、常日頃から社長が口に出しているものでもあるので、明文化はしやすいのではないでしょうか。
「理念・ビジョン・価値観」とは、このようなものです。
④社員を魅了する「理念・ビジョン・価値観」をつくるには?
ただ、社員を魅了することができる「理念・ビジョン・価値観」を創造するためには、繰り返し書き直し、ブラッシュアップをし続けることが大切です。つまり、この「理念・ビジョン・価値観」をただ創造するのではなく、しっかりと考えて、1~2回の面接で、しっかりと求職者の心を掴むことができる「理念・ビジョン・価値観」を創造しなければ、「理念・ビジョン・価値観マッチング採用はできませんよ」と言っているのです。
これは「絵」を描くことと似ています。
同じ風景を見ても、絵描きさんによって様々な「絵」になるように、似たような「理念ビジョン価値観」でも、社員を魅了することができるものか・そうでないかは、社長が何度も繰り返して考え、繰り返し書き出してみたかによることが大きいものなのです。そうして、分かりやすく魅力的な「理念・ビジョン・価値観」が固まっていくものなのです。
3.「理念・ビジョン・価値観マッチング採用」を実施するためのワンポイントエッセンス
最後に、「理念・ビジョン・価値観マッチング採用」を実践するためのワンポイントエッセンスをご紹介します。
①「理想の採用人物像」を明確にする
まず、人材採用を行う際には、闇雲に「仕事がデキる即戦力」を狙わずに、どのような人物を採用していくのかという「理想の採用人物像」を明確にしていくことが大切です。特に、自社にマッチした人物とは、「素直で真面目」に見えるという特長があります。なぜなら、相手から見ても「この会社で働きたい」「この社長の下で働きたい」と思えば、人間は、素直で真面目な側面を出すものだからです。
では、あなたの会社でそのような人物は、どのような、家族構成・生い立ちや勉強・経験をしてきた子でしょうか。それらを明確にし、自社・自分に合った人を見抜く眼を養っていきます。
その上で、上記で説明した「理念・ビジョン・価値観」に合意してくれる方が、あなたの会社の「理想の採用人物像」となります。
②求人広告の作成
次に、求人広告では、「冒頭部分のメインコピー」「業務内容」に、自社の「理念・ビジョン・価値観」に沿った内容を表現していくことになります。特に注意をしなければいけない点は、会社を少しでも良く見せよう等という誇張した表現ではなく、現状の会社のありのままを魅力的に表現するということです。また、会社の代表者のメッセージを書くことができる「トップメッセージ」の欄にも、しっかりと「理念・ビジョン・価値観」を記載すると共に、社長の生い立ちやこれまでの苦労なども、ありのままを魅力的に表現していくことがとても大切です。
それらの上で、競合他社よりも良い条件であれば、採用競争力を発揮できるものとなるでしょう。
③面接の仕方
・代表親方が面接をし、人間的にも魅力づけをすること
・条件面(近かったから・お給料面を見て・・等)や興味があったという以外の「求人応募動機」をしっかりと確認すること
・自社の紹介では、「理念・ビジョン・価値観」を魅力的に紹介し、賛同してもらえるかを確認すること
まとめ
塗装業界では、どのお店でも人手不足感が出てきており、どうしてもすぐに採用したくなってしまうものですが、入社時の相互の確認はとても大切です。ですので、採用した社員に長く活躍してもらうためには、単に条件を提示して、条件の合意をしただけで採用を決めてしまないということですね。
はい。幅広い内容となりましたが、また「理念・ビジョン・価値観マッチング採用」の「理想の採用人物像」「求人広告」「面接の仕方」については、別コラムで詳しくお話ししますし、塗料報知新聞社様とセミナーも企画していますので、そちらも楽しみにしていてくださいね。
ではまたお会いしましょう!