WEB塗料報知|塗料・塗装、コーティング業界のプラットフォーム

オリオン エンジニアドカーボンズ、高漆黒カーボンを展開

世界の塗料需要は2020年にコロナ禍の影響を受けながらも毎年順調に伸びている。カーボンブラックの需要もインドや中央アジアを始めとした新興国での塗料生産量の急速な伸びに従って高まり、特に高い意匠性が求められる自動車内外装塗料や家電製品用塗料に使用される高漆黒グレードは、旺盛な需要に供給がタイトな状況が続いてきた。

オリオン エンジニアドカーボンズ社は世界15か所に工場を持ち、着色用カーボンブラックとしては常時約200グレードを販売している。ドイツには2工場あり、塗料向けに使用されるグレードは、ランプブラック法、ファーネスブラック法、ガスブラック法の技術で生産している。オリオン エンジニアドカーボンズ社は世界の需要増に対応すべく、両工場へ継続した投資を行い、2024年末までに供給能力の引き上げを完了した。同時に、様々な高漆黒塗料向けや、サステナビリティ対応に向けた新たなグレードも開発し、展開している。

下記にこのドイツ2工場で製造されるカーボンブラックの種類や特徴、その製品を使った塗料の漆黒度の測定法、サステナビリティへの取り組みをまとめる。

【キーワード】

高漆黒、ピアノブラック、カーボンブラック、ガスブラック、易分散、漆黒度測定、オリオン エンジニアドカーボンズ

【著者】

三宅裕児 [オリオン エンジニアドカーボンズ株式会社]

1.カーボンの種類

  • ガスブラック

    80年以上の歴史を持つガスブラックは、その高い漆黒度と分散の容易さは卓越しており、現在でも世界中の多くの塗料メーカーで使用されている。中漆黒用から高漆黒用までグレードの数が豊富で、後工程で酸化処理を加え、親和性を高めたグレードもある。ガスブラック特有の物性が塗料の着色に最適であることは広く知られており、高漆黒塗料向けの代表的なグレードとしてCOLOUR BLACK FW200がある。このグレードはガスブラック特有の小粒径による漆黒度の高さ、大きなストラクチャーによる分散の容易さ、高い分散安定性が特徴である。COLOUR BLACK FW200にはパウダー状とビーズ状の製品があり、水性塗料や溶剤系塗料に幅広く使用されている。

<<Orion’s Guidelines for dispersion of gas blacks>>

 

 ファーネスブラック

ファーネス法はカーボンブラックの大量生産に向いた製法で、ゴム用グレードから、インキ用、樹脂着色用、塗料用、導電用のスペシャルティーグレードまで非常に多くの製品がある。近年、高漆黒グレードの製造も可能になり、図1に示したような漆黒度の指標の一つであるMy値で340程度の高漆黒塗料も設計可能で、自動車内外装塗料用カーボンブラックの主役になっている。

代表的なグレードはCOLOUR BLACK FW255で、ガスブラック同様にパウダー状とビーズ状の製品があり、水系塗料や溶剤系塗料に使用されている。更に高い漆黒が得られるCOLOUR BLACK FW310も注目されています。ファーネスブラックの分散はガスブラック程容易ではないが、分散機や分散剤の性能が向上し多くの塗料メーカーで使用可能になった。オリオン エンジニアドカーボンズ社はでは生産設備が改良され、ロット品質も向上し安定している。

図1 塗膜の反射率とMy値の関係

<<COLOUR BLACK FW255 の資料は本記事上段・下段の資料ダウロードで取得可能>>

ランプブラック

ランプブラックは高漆黒カーボンブラックではないが、世界で唯一のランプ法で製造されるユニークなカーボンブラックである。グレー色や淡彩色、メタリック色等の明度調整に適しており、分散がし易い「調色用カーボン」である。配合された塗料は鮮映性が高く青みのある塗色が得られるため、古くからファンの多いカーボンブラックでもある。代表的なグレードにはLAMPBLACK 101がある。

易分散タイプ

他の顔料と比較すると、カーボンブラックは分散が容易な顔料ではない。特に水系漆黒塗料を配合するには、先ず使用するカーボンブラックに適した分散剤や分散樹脂が選定されていることが必須で、出来上がったミルベースの安定性にも注意しておく必要がある。また、10ナノ程度の一次粒径の小さいカーボンブラックを均一分散するには、1mm以下の小粒径ジルコニアビーズの様な分散メディアを要するため、専用の分散機で長時間分散する必要がある。

易分散タイプのカーボンブラックを使用することで、この分散・練合の手間を省くことが出来る。例えばオリオン エンジニアドカーボンズ社のCOLOUR BLACK OE430 Wは、既に最適に分散された高漆黒カーボンブラックが約50%配合された易分散タイプの顔料である。必要な顔料濃度になるように水へ添加し、簡易な攪拌をするだけで、容易に高漆黒ミルベースが調製できる。製品は顆粒状に乾燥されているので、長期間保管しても顔料の沈降や変質は無く、いつでも自由なロットサイズの塗料が製造できるので、水系高漆黒塗料の製造管理が簡単になる。

 <<COLOUR BLACK OE430 W>>

2. 漆黒度の測定

色のイメージとして、高漆黒で鮮映性が高く、高級感のある塗色を「ピアノブラック」と表現することがある。但し、この「ピアノブラック」のイメージを誰かに伝えるのはとても難しいので、対比させたい別の漆黒塗料の塗板と隣り合わせて、明るい場所で目視比較すると、違いを良く理解してもらえる。

「ピアノブラック」の漆黒イメージを「数値」で表したい場合、測色計を使って明度測定するのが一般的である。しかし「ピアノブラック」の塗板と別の高漆黒の塗板を測定してもL*値はどちらも1以下の近似した値が得られるので、目視では明らかだった漆黒度の差を数値でイメージするのは大変難しいことが解る。

また、目的とする漆黒塗料が「底色」と呼ばれる赤みや茶みを帯びている場合、この「底色」をL*a*b*表色系のa*値とb*値で示してもイメージが出来ない。オリオン エンジニアドカーボンズ社は、My値やdM値による漆黒度管理をお勧めしている。My値は明度ではなく黒色度を示し、図2の様に彩度はdM値で赤みから青みまでを一つの曲線上で表すことが出来るので、測定値と目視のイメージが良く一致する。例えばdM値がプラスであれば青み、マイナスの値であれば赤みを帯びていることが解る。

図2 CIE a b 色座標系で表示した色相dMの絶対寄与

加えて、高漆黒度塗料の拡散反射率は非常に低く0.1%以下になる。測色計はこの僅かな反射光を測定するので、もし測定毎に塗膜の平滑性が違っていたり、ちょっとした指紋やホコリの付着があったりすると測定値に大きなノイズになる場合があるので注意が必要である。

これに似た事例として、2つの同じ黒色度の塗料を用意して、一方にだけつや消し剤を添加すると、目視ではこのつや消し剤を加えた塗板の方が青白っぽく見える。これは、人間は光源からの白色の正反射光を避けて色を判断しようとするからであり、つや消し剤により光源からの正反射光が微妙に拡散すると、光源からの正反射光を避けて観察したつもりでも、微妙に拡散した白色の正反射光が眼に入り、白っぽく見えるためである。

照明光の当て方や観察する方向によって色の見え方は異なるため、一般的な測色計では、測定ジオメトリという「照明および受光の幾何学条件」はいくつかに標準化されており、安定した色評価が可能になっている。漆黒度評価の測定ジオメトリには、正反射光を除去する単方向照明方式(45°:0°)か拡散照明方式(de:8°)が推奨されている。一般的な目視観察環境での塗膜外観評価のための測色なのか、顔料の分散度合に影響される塗料の色ブレ評価なのか、目的に合わせて測定ジオメトリを選択する必要がある。

オリオン エンジニアドカーボンズ社は、代表的な34グレードをマストーン、グレー色、メタリック色に塗料化し、それぞれの色見本を1冊のカラーガイドブックにまとめた。このカラーガイドブックから気に入った塗色を見つけたり、手持ちの塗板と隣り合わせて目視比較して最適なグレードの選択をしたりするのに役立てて頂いている。

また、それぞれの色見本には45°:0°ジオメトリで測定したMy値とdM値を記載しているので、既存の塗料と数値比較する事も可能です。測色機メーカーにもご協力頂き検証しており、目標とする漆黒度の塗板があれば、BYKガードナー社のcolor2view Prospectro2guide Pro、またはコニカミノルタ社のCM-17dCM-25cG分光測色計でMy値、dM値を測定することで、「数値」でも最適なカーボンブラックのグレード選択が可能である。

オリオン エンジニアドカーボンズ社の色見本

3. サステナビリティへの取り組み

地球の温暖化防止への取り組みは世界各国・各産業で取り組まれている。カーボンブラックの製造からも多くの二酸化炭素が排出されるので、オリオン エンジニアドカーボンズ社では二酸化炭素排出量の削減は喫緊の課題と捉えており、2050年のカーボンオフセットを達成するための工程表を策定し、毎年サステナビリレポートで進捗を公表している。オリオン エンジニアドカーボンズ社は2050年にカーボンニュートラルを達成するためのマイルストーンを設定し、様々な投資と製品開発を行っている。この取り組みは大きく3つの柱から構成されている

  • 第1の柱:機能性カーボン

  • 機能性カーボンブラックそのものは化石原料より製造するが、使用される製品が二酸化炭素の削減や、地球の温暖化防止に高く貢献する製品。代表的な製品にはアセチレンブラックがある。

    • 第2の柱:リサイクルカーボン

    • 廃タイヤを回収し熱分解して再利用することで、新たに化石原料を使用することなく循環利用する。再生カーボンブラックは主にゴム用に製品化。同時に抽出される熱分解油は着色用カーボンブラックの原料としてリサイクルする。

      • 第3の柱:バイオサーキュラーカーボン

      従来の化石原料をバイオサーキュラーな原料に切り替えて環境中で循環させる。塗料向けには昨年ECOLAR 50 POWDERの発売を始めた。

      オリオン エンジニアドカーボンズは160年の歴史を持つ、着色用カーボンブラックのリーディングカンパニーである。長い経験に基づいた技術と幅広い品揃えで多様な塗料のニーズにお応えする。
      =================

著者:三宅裕児(Miyake yuji)

オリオン エンジニアドカーボンズ株式会社
ピグメント部
問合せ先:
yuji.miyake@orioncarbons.com
================