【ミニ特集】塗料用原料の最新動向
塗料用原料においては、まず、環境対応のための塗料の水性化が今後も進展するなかで、水性塗料向けエマルションの需要拡大も見逃せない。また、各種プラスチックや自動車塗料など耐熱性や耐候性が必要とされる分野で活用される高耐候性顔料も一層の高性能化が進んでおり、各社から新製品が上市されている。
あわせて、塗料の品質向上、機能性付与に貢献する添加剤の新製品開発も目覚ましいものがある。さらに、素材供給にとどまらないユーザーの課題にあわせたサービスやソリューション提供への取り組みは、今後の原料販売の新しい姿として注目される。(『塗料報知』2017年7/27号)
PCDチェーン充実化 宇部興産
宇部興産は、2016年度からの中期経営計画で化学部門復活を最優先課題に掲げ「高機能コーティング」を積極拡大事業の一つに位置付けている。その一環としてポリカーボネートジオール(PCD)を軸に、ポリウレタンディスパージョン(PUD)、ウレタンアクリレート(UA)を展開する「PCDチェーン」について、質量ともに充実化を推し進めている。
▽PCD=量的には、一昨年にタイで開設された生産施設をフル稼働させて、中国はじめアジア圏で増加し続ける需要に対応。用途は合成皮革がもっとも多く、自動車用水性塗料が続く。高耐久性と心地よい質感・風合いへの評価は高い。質的には従来のグレードUH、PHに続いて、新製品のUPを今年6月に上市。本製品は表面硬度や独特の風合いなど従来品と異なる特性を持ち、より価格が抑えられている点が特長。異種成分とのマッチングも良好で、水性塗料や接着剤などへの適用も期待される。
▽PUD=量的には、特に中国市場での環境対策推進に応じて、自動車内外装用の塗料原料としての販売量が順調に増加。質的にも、質感の柔らかさと、高い耐光性・耐久性を両立したUW2000シリーズを昨年より本格販売し、新製品で需要の喚起を狙っていく方針である。
▽UA=環境対応型で使用しやすい無溶剤型の新製品を開発中。最近の自動車内装では、特定の化粧品類付着に対しての耐薬品性を求める声も多い。こうした要望に高度なカスタマイズで応える同社〝カスタマーオリエンテッド〟型ビジネスで、UAでも新製品を生み出したいとしている。
担当者は「長年のノウハウを積み重ねたPCD技術の強みを生かし、PCDチェーンでも性能面での差別化のみでないカスタマーオリエンテッドで、ユーザーそれぞれの需要に応えたい」と語る。
水性で優れた浸透性 昭和電工
昭和電工の「ポリゾール」シリーズは、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂などを主成分とした環境にやさしい水性エマルジョン樹脂で、接着、粘着、塗料、紙、繊維、土木、電材などの各種分野において幅広く使用されている。
塗料分野、とりわけ建築塗料分野では、溶剤系から水系の樹脂への代替が大幅に進んでいる。特に、建物改修現場での塗装においては、粗悪な下地、多様な上塗りに対応できるプライマーとして、長年にわたって塩素系樹脂の溶剤系プライマーが主流であり、水系で同等の性能を持つ製品が渇望されていた。その要望に応えるべく開発されたのが、特殊カチオン系コロイダルディスパージョン「ポリゾールAP‐1350」である。
本製品は、粒子が従来のエマルジョンと比較して1/10程度の大きさにまで微粒子化され、エマルジョンと水溶性樹脂の性質を併せ持つのが最大の特徴。これにより、表面に緻密なバリア皮膜を形成すると同時に下地のくぼみにも十分浸透して固着することで、優れた下地密着効果を発揮し、溶剤系に匹敵する浸透固着性を実現した。
また、粒子に強いカチオン性を持たせることにより、アニオン性が主流のさまざまな旧塗膜や密着性が困難であった弾性塗料、弱溶剤系塗料などの上塗り剤にも塩素系樹脂に匹敵する優れた密着性を発現し、更に耐水性にも優れた「水性浸透プライマー」となっている。
今後も長年培った技術で市場ニーズに応える製品開発を続け、幅広い用途、基材、要求性能に応えるエマルジョン製品の開発に積極的に取り組んでいくとのこと。また、国内の地盤強化はもちろん、既に製造拠点のある上海、タイを中心に海外展開も更に強化する方針である。
新規黒色遮熱顔料を開発 石原産業
石原産業は、白色顔料として使用される酸化チタンの国内トップシェアのメーカーであるが、酸化チタンに限らず、機能性を特徴とした無機の高付加価値材料の市場展開に力を注いでいる。
省エネや節電対策で市場の関心が高い遮熱塗料用には、白色タイプのほかに黒色タイプ、透明タイプの材料を揃えており、さまざまな使用方法に適用できるようラインアップしている。
その中で黒色遮熱顔料「タイペークブラックSG‐101」は、チタン酸カルシウムにマンガンをドーピングしたタイプ。黒色顔料にもかかわらず、暑さの原因である近赤外線の反射性能を高めた。また、赤味感の少ない黒色顔料でニュートラルな黒色を示す。環境懸念物質のクロムを含まないことも特徴。遮熱機能が求められる黒色系の建築用塗料をはじめとして樹脂着色、繊維用途に展開している。
さらに今回、自社の結晶安定化技術を応用して、塗料向けで課題となっていた屋外用途でより厳しい環境に対応できる新規改良品を開発した。改良品は、近赤外線の反射性能、ニュートラルな黒色、クロムフリーなどの従来の特徴は有する一方、酸性雨などの厳しい環境を想定した耐酸性試験でも変色・退色しない特徴を示す。一部需要家では既に好評価が得られており、本年秋から本格的なサンプルワークに入る計画である。
同社は、新規改良品の投入により、塗料分野で黒色遮熱顔料のさらなる展開を目指す。
優れた赤外線遮蔽性 テイカ
テイカは、酸化チタン素材技術を駆使して、世界に先駆けて赤外線遮蔽酸化チタンの量産技術を確立し、工業化した。
同社の赤外線遮蔽酸化チタン「JR―1000」は、独自の性質をもった大粒子径酸化チタン基材をベースに、使用用途に応じた表面改質を施し分散性に優れている。
波長3μm以下の赤外線遮蔽性に優れており、遮熱性が良好。長期安定性(耐候性)、耐酸性、耐薬品性にも優れる。こうした機能の発現は、同社が長年培った固有技術により実現したものである。
赤外線遮蔽酸化チタンは、太陽光中の近赤外線を遮蔽する機能があり、樹脂等組成物に配合されると、近赤外線が内部へ吸収されることを抑制することができる。
この機能を舗装道路・建築物・船舶・自動車・家電製品等へ適用した製品は温度上昇が抑えられ、ヒートアイランド現象の低減、地球温暖化防止に役立てられている。
多層コーティング意識の添加剤 ビックケミ-・ジャパン
ビックケミー・ジャパンは添加剤メーカーとして、“表層コントロールのお助けマン”的な立場から、塗料業界をサポートする。今回はコーティング材自身の機能付加だけでなく、多層コーティングを意識した添加剤を紹介する。具体的には次層に塗布する塗料の塗布やインクの印刷をしやすくする製品である。
従来、多層コーティングする場合の下塗り塗料は、下層膜のレベリングを良くしながら、リコート性を確保するために、二つの方法があった。一つは非シリコン系表面調整剤を使用しながら、塗料の粘度でバランスをとる方法と、もう一つはシリコン系の表面張力剤の強さと添加量を調整する方法である。ビックケミーではこのバランス取りを容易にする表面調整剤を開発し続けている。特に塗料液中で表面張力を下げ、乾燥後は上塗りがのりやすい状態にできる製品の構造制御に工夫を凝らしている。近年要求が高まっているUV硬化系に使用できるBYK―UV3535やBYK―UV3576、無溶剤系に設計された溶剤を含まないBYK―378やBYK―3760など、ユニークな製品も出てきている。
また、バランス取りではなく、根本的に解決できる製品の開発も進めている。マクロマー合成を用いることで、下塗り塗料に添加することで塗膜の表面張力を上げ、上塗り適性を上げる製品を実現した。一昨年上市したBYK―3560の改良版として、今年BYK―3565を上市した。まだ、全種類の塗料系で効果を発揮するまでには至らないが、既存のBYK―3560よりは効果および適用塗料の範囲も広がっている。さらに、この製品は塗膜を親水化にすることができるため、塗膜の汚れ防止の機能も有する。
従来、コーティング材を設計する技術者が工夫してきた表面調整を簡単にすることで、本来、塗膜に要求される性能アップに集中できると考えている。