有害複合化で処理施設制限
課題多い低濃度PCB廃棄物問題
現在約70万橋ある橋梁の塗り替え現場で最近のトピックスといえば、人手不足による省工程化。環境を配慮した水系塗料のテスト施工などがあげられる。また、有害塗膜の廃棄物処理においても環境規制が強まるなかで、塗装現場から困惑の声が届く。
旧塗膜の廃棄物処理についてまず思い浮かぶのが鉛含有と同時にPCB(ポリ塩化ビフェニル)の問題ではないだろうか。PCBは電気機器のトランスやコンデンサなど、電気を効率的に使うために利用されてきたが、塗装業界にも影響がある。1960年代後半から70年代初めにかけて、重防食用途で橋梁の塗装に使用された塩化ゴム系塗料の一部にPCBが可塑剤として使用されたことが知られている。国は、PCB廃棄物の廃絶を進めており、PCBが含まれる塗膜の処理を巡って全国規模での統一認識が薄く、現場は困惑しているという。
通常、橋梁などの塗り替え時の旧塗膜にPCBが含有していても濃度としては微量である。PCBが高濃度で含まれる過去の製品のトランスや高圧コンデンサと違い、旧塗膜の廃棄物は「低濃度PCB廃棄物」の汚染物扱いになる。塗膜低濃度PCB廃棄物の数値の規定では、PCB濃度が0.5㎎超から5000㎎/㎏以下とされ、この濃度の廃棄物は「低濃度PCB廃棄物の無害化処理認定施設」での処理が必要となってくる。全国に20カ所ほど処理施設があるが、PCB以外に鉛を含有する場合など有害塗膜が複合化すると、処理施設が限られる。
ではどれだけ橋梁などの塗膜に現在PCBが含まれているかという問いには、具体的な数字はなく、全体像の把握は困難である。PCBが国内で使用されたのが、約5万4千㌧で可塑材や塗料等が含まれる「その他用途」として2910㌧の中にどれくらい塗料が含まれているかはわからない。参考までに、首都高速道路が2013年に塗替え工事を準備していた橋梁170径間の塗膜中のPCB含有濃度を確認した結果を公表している。これによると、含有濃度50ppm未満が166径間(5ppmが164径間)。含有濃度50ppm以上が4径間であった。この事例でも現在の橋梁で、かなりの橋梁でPCBが含まれていると予想ができる。事前に塗膜の有害物質調査を講じる必要があるが、コスト面で対応できていないのが実情であろう。そうであれば、PCBが含まれているという前提に立ち、粉塵の飛散防止、立入禁止措置などの徹底が重要だ。特にPCB廃棄物の責任主体は発注者であり、保管や処理施設の運搬の責任を負うことになるので、適切な対応が必要となってくる。
「低濃度PCB廃棄物」は、国は2027年3月末までに廃絶を目指しているが、橋梁に旧塗膜に含まれるPCBの実情が把握できていない今、どの時点で廃絶というのかも含め課題は多い。
『塗料報知』2016年6月27日号(4145号)掲載